「カキフライが食べたい。筍のラグーはできる? 春ならアバッキオだよね。」というわがままな攻撃に、シェフは見事に答えてくれた。
世間でカキフライは二月に終了するけど、実は養分を孕んだ3〜4月が一番うまいんだとかなわの社長に教わった通り、今の時期の牡蠣は味が濃い。
だからカキフライで生きる。
清らかな海域である大黒神島深浦で育った牡蠣は、自家製パンのパン粉にパルミジャーノと海藻を混ぜて衣を作って揚げ、みかんの皮を粉状にして振りかけてある。
ううっ。噛んだ瞬間に思わず唸ってしまうほど濃密なエキスをにじませる牡蠣は、余韻が長く、素晴らしい。
食べ終わった後もしばらく、海の豊穣が、乳のような甘みが、口の中に漂よって、うっとりとなるのだな。
さらにロワールの白アスパラは、カキフライより粗めの衣をつけて揚げ、上からペコリーノを振りかけ、下には、蓬と芹、ピクルスを刻み入れた卵黄のヴィネグレットを敷く。
はは。穂先を噛んだ瞬間に笑った。
春の香りが爆発し、それが衣の香ばしさと重なって、笑いが止まりません。
根元のミネラル感が強い部分は、より衣のコクと相まって凛々しく、ソースの酸味に支えながら、芽生えのエネルギーを我々に伝える。
そしてアバッキオの登場である。
フォークもナイフもいらない。
手で持ってかじりつき、優しくほの甘い香りに目を細め、流れ出る肉のエキスに鼻息を荒くする。
骨周りの筋を、歯でしごくように剥がし取る。
齧る。噛む。噛む。
肉を食う喜び、春を享受する幸せ、ここに極めり。
「ラ・ブリアンツァ」にて。
わがままな攻撃に、シェフは見事に答えてくれた
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