さりげなさに情の深みがある。

食べ歩き ,

また映えない写真である。
ピンをわざと奥に絞ったので、余計かもしれない。
しかしこんな冷え込んだ夜には、このスープが最上のご馳走だろう。
「サエキ飯店」の「クレソンとハタのアラと豚と杏仁のスープ」である。
一口飲めば、滋味がゆっくりと起き上がる。
二口飲めば、隠された甘みが顔を出す。
三口飲めば、滋養が体に染み渡る。
クレソンなのにグリンピースのような、優しい甘みがある。
聞けば棗の甘みだという。
淡い柳茶色をしたスープは、混沌の旨味を抱きながらどこまでもさりげない。
そのさりげなさに、情の深みがあって、体の芯に火をつける。
そして思わず口をつくのは、「はぁ〜」という、精神が揉みほぐされた言葉である。