早川「イルマーレ」

〜海の滋養とまぐわう〜

食べ歩き ,

〜海の滋養とまぐわう〜
「目の前の海で上がった魚たちです」。
昼の陽光を浴びて、様々な魚が輝いていた。
イサキのライム風味。赤イカ。そげのトマトとヴィネガー風味。鯖のマスタードと粒マスタード風味。カツオとバルサミコ。真蛸とゼミドライトマト。ハナダイとカラスミ。鯵と胡瓜とトマト。コノシロ胡麻風味。西京味噌につけたクリームチーズを抱いた小ムツ。
「どう? おいしい?」 それぞれの魚が自慢げに、囁いてくる。
中でも素晴らしかったのが、アミューズのカマスのフリットと片口鰯だった。
地元のそば粉とビールで作った衣が、カリリとかいかいな音を立てて弾けると、甘い香りの湯気が立ち、歯がふうわりと抱きしめられる。
優しい甘さが流れ出て、目が細くなる。
その甘みは、噛んでも、噛んでも消えゆくことなく、食べ終わってもひだまりとなって口の中に残る。
一方、カタクチイワシは、白ワインとアンチョビで軽くマリネしてある。
そっと噛む。
なんと身がしなやかで、歯と歯の間で悶えるように体をよじる。
数時間前まで生きていたそいつには、まだ命の気配が満ちている。
「ゆっくりと味わいなさい」。
そんな声に導かれて、僕は意識を集中し、目を閉じて、深く息を吸い込みながら、イワシとまぐわった。