「新記録です」。
と言われて、ハッとした。
35個も握りを食べたからではない。
食べ過ぎたという反省でもない。
つくづく思った。
自分は、お腹を満たしたい。美味しいもので満たされたい、というより、知的好奇心を満たしたいのだと。
だから満腹という意識は無視して、用意された魚種を全てを食べてしまった。
どの握りも今まで食べたことがない、味だったせいもある。
ワラサ、真鯛、ヒラメ、まとうだい、マグロ、車海老、サザエ、石鯛、黒むつなど、食べたのは、おなじみの魚である。
それなのに、エロく、太く、陽気で、力強くと、それぞれの魚の見えていなかった深いところにある味わいや、根元を味わったからである。
なにしろ「すし」だというのに、醤油が一切登場しない。
油と塩。以上である。
油も塩も魚によって使い分け、その種類は30種以上である。
魚を食べてその魚が食べた餌の香りを感じて油を決め、生態系にあった塩を選ぶ。
面白い。面白すぎる。
海苔巻きだって、黒胡椒とオイルだけの海苔巻きなんて、おいしいと想像つきますか?
ところがこれがね。ふふふ・
すし通は嫌がるかもしれないが、すしの概念をゼロにして(あるいはしなくとも)虚心坦懐で食べれば、その良さが見えてくる。
そして食べていると無性にワインが恋しくなってくる。
ということでガヴィよりガヴィらしい日本ワインもパカパカ飲んでしまった。
すでにミラノやNYから引く手あまたという、奥田シェフの真骨頂 鶴岡「イル・フリージオ」。
この店名も、ダジャレだな。