徳川家康は、沢庵が好きだったという。
ところが歯を悪くして食べられなくなり、料理人岩下覚弥は工夫して、千切りにし、生姜醤油で和えて、家康に差し出したところ、大喜びされた。
これが「覚弥」という料理になったというのが、一説となっている。
幾度もいただいたが、最も大切なことは細さにあると思う。
沢庵も合わせる野菜も細ければ細いほど、空間が増えて、香りが高まる。
噛みやすくもなる。
注文すると銀蔵さんは、胡瓜と茗荷を細く切り始めた。
次に沢庵である。
沢庵をなんと正確無比な桂むきにし、細く細く切った。
沢庵、胡瓜、茗荷。
同寸に切った野菜と漬物が、空気を含みながらふんわりと盛られている。
ポリッ。シャキッ、コリッ。
歯と歯の間で、3色のリズムが響く。
ポリリズムに似て、異なる痛快な食感が重なり合って、心地よい緊張を呼ぶ。
そこへ香りが対上がる。
咀嚼と共に、爽やかさや老練な香りが入り混じって、広がり、口から鼻に抜けていく。
そこには快感があり、深みがある。
一見無骨ながら風流があり、簡素ながら。複層がある。
