小芋が安息している。
へちゃ。
噛み始めから噛み終わりまで、均一な食感で、ゆっくりとつぶれていった。
繊維を緩め、人間の力を抜きにかかる。
噛んだ瞬間に、重力からとき放たれ、体がふわりと浮いた。
完璧な亀甲むきにし、水からニ時間ほど炊かれたのだという。
ザルにあげず、そのまま熱い出汁に平行移動させる。
小芋は皿の上で、わずかな煮崩れもなく、楚々と佇んでいる。
柔らかすぎず、硬すぎず。
生まれた尊厳を留めながら、歯と歯の間でほどけていく。
京都「浜作」にて。
小芋で思い出した。
辻留の3代目、辻義一さんは、20歳の時、鎌倉に住む魯山人の家に、料理人として奉公に出された。
ある日、滅多に料理を褒めない魯山人が、珍しい言葉を放ったという。
小芋煮だった。
「うまいな」。
辻義一さんは聞き違いかと思い、「はっ?」と聞き返した。
すると魯山人は、「これはうまい」と、繰り返した。
「ありがとうございます」。辻さんは頭を下げた。
その姿を見た魯山人は声を荒げた。
「バカモン、これはお前が偉いんじゃない、小芋が偉いんじゃ」。



