この店で点心を食べ、思った。
僕はこれから先、他では点心を食べられないかもしれないと。
歯が得る食感は、極めて精密である。
0.1ミリの違和感を、的確に見出す。
歯医者で、微妙な噛み合わせの違いがわかる経験があろう。
料理におけるその意味を、あらためてここの点心から教わった。
大根パイ(細かく切ってマリネした大根を炒めてバイ生地に包み、揚げるか焼いた料理 蘿蔔絲酥餅)である。
今まで数多くの大根パイ食べてきた。
しかしこんな脆弱な生地はない。
生地が極めて薄い。
薄いがしっかりとしている。
サクサクではなく、チリリという感じで歯が入り、生地の香ばしさか口を満たすが、その瞬間に消えて、もったりとした大根の餡が甘く舌に流れ込む。
軽妙と重厚。
小さな体に込められた異なる魅力に、唖然となって、鳥肌が立った。
大根パイだけでない。
羽つきニラ焼餃子の、極薄かつ均一な羽根の繊細さと、香りたつニラ餡ともっちりした皮の対比。
タロイモの重さと天女の羽衣のような生地が対をなす、タロイモパイ。
ふんわりと歯を抱きしめる生地の中から、ネギの甘みが飛び出る、を詰めた
噛んだ瞬間に、貝柱の旨味が弾ける焼売。
極薄皮ながら餅っとした食感があり、中からカリカリとした野菜の食感が現れる、野菜水餃子。
叉焼饅頭の、極上メロンパンのような軽やかな生地。
もろくはかない生地から、凝縮した卵感が溢れ出る、エッグタルト。
生姜の刺激がギリギリの際で決めたスープに浮かぶ、胡麻団子。
そして有機栽培の紅麹で染めた「腸粉」は、今まで食べたどの腸粉とも違う。
しなやかでむっちりとした薄い皮で、蒸したエビの餡と極薄の揚げバイを包んでいる。
揚げパイの食感を活かすため、手際よく包んだのだろう。
皮のむちっ、パイのサクサク、エビ餡のプリッという三つの食感が同居して、楽しませるのであった。
点心師の技に、身が震える。
歯が喜んでいる。
知る喜びと知ってしまった悲しみを得てしまった。
僕はもうこれから先、他では点心を食べられないかもしれない。
台北リージェントホテル「晶華軒」にて