地味である。
実に地味である。
40歳の青年は、地味な料理しか作らない。
季節野菜のミネストラ。
ウンブリチェツリのマッシュルームソース。
トリツバの煮込み。
菜の花の煮込み、カチョカバロ 。
セロリ揚げ団子。
どれも深緑と茶色系しかない。
しかしどの皿にも、地に足がついた地味がある。
深く穏やかな滋味がある。
都会の速度に疲れ、しがらみの垢が抜けず、仕事にせき立てられ、自分を失いそうになったら、ここに来よう。
そう思わせる地味がある。
作っているのは青年だが、おいしくなれおいしくなれと念じながら煮込まれた、マンマの味である。
だからどんな傷も癒してくれる。
食べた瞬間に、優しい笑顔が生まれる。
そんな素敵なイタリア料理店が、明日開店する。
しかも地味な料理が続いた最後は、ガッツリ焼いたサカエヤの牛肉で、精気を吹き込んでくれるのだからたまらない。
手助けしたくなるような、シェフのつたない性格も、またほのぼのとさせるのだな。
溝口くん、今度はヨータやサルサニーホ、フイナンツェーラやアクアマーレも作ってね。
MURENA