そのお椀は、「薬食」と名づけられていた。
旬を迎える野菜や魚介から力をもらう。
それこそが「薬食」である。
蓋を開けると、端正な景色が飛び込んできた。
揚げナス、叩きおくら、ウニを椀種にしたお椀である。
オクラは、繊維を感じないほど、ムースのように叩かれ、ウニは80度で20分蒸したのだという。
つゆをすする。
羅臼昆布の太いうまみが、舌を滑り落ちて、ため息をつかせる。
蒸しウニを舌に乗せ、ゆっくりと潰していく。
生ウニとは違う、か細い甘みが顔を出し、消えていく。
今度はウニを口に入れ、つゆを少し飲んで潰してみた。
するとどうだろう。
羅臼昆布を食べて育ったウニのうまみが、羅臼昆布の出汁に包まれてふくらみ、我々を海の底へと連れていくではないか。
滋養に満ちた海底の輝きが、口の中で弾ける。
オクラのたたきとウニを合わせれば、オクラの粘度がウニを包み、より甘く感じ始めた。
再びつゆを一口すする。
そのうまみにため息をつきながら、箸先で茄子を裂く。
茄子を口に運ぶ。
露地物ゆえに皮が歯にかからず、果肉から優しい甘みが、ぽってりと落ちる。
ああ、なんと穏やかなのだろう。
夏を迎えて力を宿らせようとする茄子のエネルギーが、甘みとなって体に満ちていく。
その狭間、実山椒がほんのり香って、茄子の油感を引いた。
このお椀の主役は、茄子である。
それゆえに蒸しウニにして味を和らげ、叩いたオクラとの食感の対比で、茄子の豊満さを強く感じさせる。
今年も厳しい夏になるだろう。
きつく、バテそうなときは、このお椀を振り返る。
茄子やウニの生命力を反芻し、思い返して、自らを奮い立たせよう。
銀座「大夢」にて