東京の外食シーンでは毎年、自然発生的、確信犯的両側面からブームが起こる。
特にここ数年の動きで、顕著な動向の一つが、バルの増加だ。
2005年、銀座や虎の門を中心に、スペインバルが増加し、いったん鎮静化するかに見えたが、2008年に入ると再び勢いを増して、2009年からは、バリエーションが増え、進化していった。
坪数、人件費、什器代などを抑えられ、手軽に開店できるという経営上のメリットもあろうが、飲食量や滞在時間を客の裁量で決められるという気軽さと、「おひとりさまでも気兼ねなく楽しめる、「孤立の時代」の気分に沿ったということもあろう。
新規店増加が続くバルは、2011年以降、
①「本格化」②「多様化」③「マイクロ化」という3つの現象が見られた。
②と③は、今後ご紹介することにして、今回は①「本格化」の代表的な店を紹介したい。
牛込神楽坂のだ「バルマコ」である。
本格化とはすなわち、料理がとにかくおいいしいのね。ははは。
そりゃあ今までのバルもうまい。
しかし本格派は、郷土料理を数多く揃え、定番のバル料理も一味違う。
例えば「アヒージョ」。
野菜や魚介の小皿油煮だが、今までのバルは、単なる油煮であったことを気づかされる。
「バルマコ」の「海老のアヒージョ」千円は、質の高い海老を使い、火入れが巧みで、油に海老の味噌や殻のうまみが溶け出して、なんとも香ばしい。
この油だからこそ、パンを浸けて食べる価値があるというものだ。
また、いわしの酢漬け「真鰯のヴィネグレッタ」という定番も、固いパンの上に、数種の野菜のマリネ、鰯が重ねられ、バルサミコがかけられる。
一口でほおばれば、鰯の質と締め具合、酸味のバランス、野菜やバルサミコの甘み、パンの食感などが次々と口の中で弾ける。
加えてシェフの出身、高知県土佐清水より直送の魚介料理がいい。
「カンパチのプランチャ(鉄板焼き)」は、切れのいい脂を舌に広げながら、カンパチがほろりと甘く、崩れていく。
「アオリイカとムラサキハナ豆の煮込み」は、イカの甘みと豆の甘みが抱き合って、笑いが止まりません。
その他ナヴァーラ地方特有のソース、チリドロンソース(野菜のトマトソース)にまみれて、噛んだ途端に子羊の香りが溢れる、「仔羊のミートボール」や、「牛胃袋とガルバンゾ豆の煮込み」といった肉料理も欠かせない。
細長い店内は、手前が立ち飲みで、奥にカウンター席と二人掛けテーブル席。大人の客で連夜賑わって、気さくなスタッフたちと、実にいい光景を醸し出している。
後は、バスク地方特有の微発泡ワイン「チャコリ」や、3500円からあるボトルワインを傾ければ、愉快な夜が更けていく。
バルマコ
六本木「ラ・オリーバ」
生ハム直輸入会社が営むだけあって生ハムがお値打。料理長以下スタッフがほとんど女性。ソーセージと豆の煮込みがお奨め
半蔵門・イタリアバール「エリオ・アンティーカ・フォルネリア」
リストランテ「エリオロッカンダイタリアーノ」直営のバール。パスタ類や辛いカラブリア風自家製ソーセージがいい