留椀の前には珍しく、酢の物でなく和物が出された。
「田芹とはりはり大根、とり貝の胡麻和え」である。
鳥貝と大根は、田芹の細さに合わせて同寸に切られ、和えられている。
『んんん』。
一口食べて唸った。
芹の香り、大根の食感、とり貝の旨味、ゴマの香りと甘みが小さな宇宙をなし、丸く丸く収まっている。
どの食材も主張しすぎることはないが、それぞれの役目を果たしている。
どこまでも自然で、てらいがない。
金目のものはないが、これこそがご馳走というものであろう。
心を入れた経験だけが作り得た味なのだろう
表現すればするほどウソになってしまう、“妙味”である。
江戸時代の人は言った、妙味とは16、17の娘の乱れ髪
「「言うに(結う)に言われず、解くに(とくに)解けず」
元赤坂「辻留」にて。