フグも松葉蟹も出された。
フグの白子も、鯛も白甘鯛も続いた。
だが、他愛もなき根いもの炊いた皿に心が動くのはなぜだろう。
京菊菜と椎茸の胡麻酢和えの、酢の加減と椎茸の含み味に感動するのははなせだろう。
胡麻豆腐の清廉に、背筋が伸びるのはなせだろう。
白甘鯛の白焼きも、頭抜けておいしいが、添えられたセリと伽羅蕗、昆布の和物の方に入れ込むのは、なぜだろう。
歳を重ねたせいか。
経験を積んだせいか。
多忙の最中に食べたせいか、
はたまた厳しい冬にいただいたせいか。
世の中でご馳走と言われるものより、地道な野菜料理をしみじみと受け取った。
それは、店主森幸博氏の、誠実であろう。
うまくなりすぎない一点で味を留めるという、眼力と勇気が、我々の心を震えさせるのだろう。
新富町「味幸」にて