今回の札幌旅行で、一番の発見だったかもしれない。
「前の店が「収穫」という意味の「サグラ」だったので、その意思を受け継ぎたく、僕は収穫し終わった後に、“種まき”をし続けることにしました」。
種まきという意味を持つ「Semina」の田中シェフは、そう言って微笑まれた。
北海道全土の優れた生産者の産物を使って、イタリア料理を作っていた「サグラ」は余市に移転した。
その同じ場所で、一緒に働いていた田中シェフが店を開いたのが、「Semina」である。
店の壁には、北海道全土の生産者を記した黒板が掲げられている。
その数は48にも及ぶ。
料理には、その食材たちを輝かし、昇華させようという、情熱に満ちていた。
その一つが、フォカッチャである。
無農薬で作られた小麦全粒粉で作ったのだという。
噛めば、歯を押し返す弾力があって、小麦の甘い香りとパン焦げ香が漂って、心をくすぐる。
飲み込む時に、ふわりと鼻に抜けていく、甘いような香りがたまらない。
いつまでも噛んでいたい、滋味がある。
「おいしいね」と、同席者と何度言い合ったことか。
正しいパンには、一緒に食べる人同士の心をつなぐ力がある。
そして白アスパラとグリーンアスパラは、北島農場の豚で作った、自家製ベーコンや卵と出会わせられ、この世に芽生えてきた喜びを、口の中で爆破させる。
毛ガニの甘みと木の芽の爽やかな刺激香が、美くし抱き合うリゾット。
どの料理も、手はかけられているが、シェフの自我は引っ込んでいて、素直な命の力に話しかけられる。
北海道という豊かな大地と海に育まれた産物には、のびのびとした清澄な養分が感じられ、それを実直に表現した料理には、我々の精神を安寧へと導く力がある。
ああ、そのことを知っただけでのこの店に来たかいがあった。
「Semina」の全料理は