名古屋「吉い」

清澄なるもの。

食べ歩き ,

ふくふくと太った筍を、喰む。
瞬間、体中の力が抜けた。
じゅわり。
柔らかい甘みが、舌に沁みていく。
無垢で、汚れのないエキスが、土の精の香りが、口中の粘膜にしなだれる。
今自分は筍を食べている。
だがこれは本当に筍なのだろうか。
そう思わせる清らかさがあった。
食べてはいけないものを食べてしまったかのような、超えてはいけないものを超えてしまったかのような 人間が触れてはいけない、はかなき危うさがある。
今度は前歯で小さく千切った筍を、舌の上に乗せた。
ああ。
ああ。いけない。
舌の上の筍から、甘みが滴り落ちてくる。
奥ゆかしい品位が、舌を包み、官能を抱きしめ、清澄な世界へと旅立たせる。
地表に顔を出さず、肥えた土壌の中で蓄えた養分とは、かくも清いものなのか。

岸和田の白筍
名古屋「吉い」にて。