海が爆ぜている。

海が爆ぜている。
海が生きている。
噛み、香り、味わうたびに、清らかな海の豊穣に唸る。
「下関三海の恵み」というイベントに参加した。
瀬戸内海と日本海、そしてその二つがぶつかり1日に4度も潮の流れが変わるという関門海峡の「三つの海」に下関は面している。
そのため、温度が異なり、プランクトンが異なり、激しい海流に揉まれるという複雑な地形が、他にはない多種で質の高い魚介類を育んでいるのであった。
下関といえば、一般的に真っ先に思い浮かべるのはフグだろう。
しかしそれだけではない。
ケンサキイカ、赤ウニ、クエ、サワラ、のどぐろなどの質が、極めて高いのである。
その魚介を使って、日本料理「帰燕」の石塚 啓晃料理長と「ア・ニュ ルトゥルヴェ・ヴー」下野 昌平シェフが、料理を作られた。
「こんなにポテンシャルが高い魚に、久々に出会って震えました」下野シェフが言う。
石塚氏も、優れた魚に触れて、実に嬉しそうである。
料理は石塚氏の、「下関産のどぐろと自家製ごまどうふのお椀」から始まった。
のどぐろは脂が強いだけに、出汁と出会うと、ややもするとくどさとなってしまう。
しかし、のどぐろの脂には品があって、、それがすうっと出汁と馴染み、味わいを深めていく。
次の「下関産とらふくのお造り白子ポン酢のソースと共に」は、ふく刺しをつける白子ポン酢が憎い。
濃密な白子の精が、爽やかなポン酢と溶け合い、ふくのうまみを生かす。
一枚食べるたびに酒が恋しくなるお造りである。
そして「下関産クエとふきのとう百年芋の揚げだし蟹と菜の花の餡かけ」と、来た。
揚げられて、その力強さを一層発揮したクエに、下関ロハス農園で作られる百年芋の優しい甘みが寄り添い、ふきのとうの苦みがアクセントする。
海と山はつながっている。
そう思わせる逸品だった。
続いて下野シェフである。
「下関産剣先イカのパスタ仕立て」
イカを細くパスタ仕立てにした一皿である。
なにより、イカが素晴らしい。
甘みに透明感があって、その美しい味を損なわぬように繊細に味付けされていて、舌を通り過ぎた瞬間に、うっとりとなる。
「カブの低温キュイ下関産粒うにのオランデーズソース」も驚かされた。
低温で調理された、株のみずみずしくも生き生きとした甘みに、粒うにである。
おそらく粒うにをフランス料理に使ったのは、下野シェフが初めてではないだろうか。
塩と旨味が強いだけに、ソースなどに使うと、味がとんがりやすい。
しかし、上質な粒うにのなせる技なのだろう。
オランデーズソースに複雑な甘みを持たせて、カブ、卵、ウニという三者の甘みが、共鳴しあう。
上質な白ワインが飲みたくなる、色気が漂う味であった。
最後は、「下関産サワラのポワレもち米のリゾット」である。
鰆の下にロハス農園のもち米を燻製にしたリゾットが敷かれている。
「こんな立派なサワラは滅多にない」とシェフが言うように、見事なサワラである。
おそらくポワレしていて、気分が高揚したに違いない。
柔らかな旨味を膨らまして、口の中に春が開く。
品のいい脂がゆっくりと流れて、リゾットの燻製香と抱き合っていく。
ああ、こいつも白ワインが飲みたくなるなあ。
質の高い魚介を料理したお二人の顔は、実に晴れやかで、面白いおもちゃに触れた子供のように、生き生きとした目で料理の説明をされているのが、印象的だった。
そう。優れた魚は、料理人を、我々食べる側を、人間を活性化させるのだ。