歓喜にむせび、泣いていた。
至高の豚肉である愛農ナチュラルポークは、稀代のとんかつ職人によって揚げられたことを、泣いていた。
270gのロース肉は、厚い背脂をつけたまま、低温からじっくりと15分かけて揚げられる。
断面がしっとりと濡れている。いや泣いている。
早く食べてと叫んでいる。
噛めば、優しい甘みが溢れ出て、豚へのありがたみが満ちていく。
たくましい肉のエキスが口の中を圧倒するのだが、一方で気持ちがゆるゆると穏やかになっていく。
敬虔な気持ちになっていく。そんな豚肉なのである。
そして脂がいけません。
歯が脂に包まれた瞬間、溶けてしまう。
甘く香りながら溶けていく。
残り香だけを残し、さらりと消えていく。
普通とんかつは、素か塩だけで食べる。いい豚肉ならなおさらである。
しかしこのカツは違った
。ソースを受け止め、互いに高みを登って行こうとする博愛の気持ちがあって、新たな美味しさを生むのである。
さらにカツを食べ、ご飯を食べるとどうだろう。互いの甘みが増すではないか。そして最後の豚汁は、豚のダシがどこまでも丸く甘く、心をほっこりと抱きしめる。
最高の食材と最高の技が出会った奇跡に、至上の愛に感謝。
豚がむせび泣く
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