「樋口」で驚いたのが、鯛のお造りだった。
食べればもっちりと歯に舌にからんでくる。
この感覚は、そうそうない。
弾力のある身を噛んでいくと、品のある甘みがあり、脂は乗っているが強過ぎ図に、軽やかな余韻だけを残し、ふわりと消えていく。
まさに優美なこの魚しか持ち得ない味わいである。
いや、毎日鯛のお造りを引いている京都でさえ、最近は出会えなくなってしまった。
仲買と何度も何年もやりとりしているうちに、この鯛に行き着いたのだという。
その執念を、さらりと、何事でもないようにいう樋口さんが素敵である。