有楽町「慶楽」では、散々悩んだ挙句、「猪肉炒河粉」を頼んでしまう。
平たい麺が唇を撫でるように口に入ってきて、歯の間でもちっと弾む。
その瞬間を愛している。
いわば、「ずるん。つるり。もちっとね」である。
豚肉やアサリが入っているが重要ではなく、青菜の香りとシャキッと炒められたもやしが、河粉の食感と対比して、楽しいのである。
さらに忘れてはならぬのが、卓上に置かれている「唐辛子酢」である。
いやこれは、「酢漬け唐辛子」といった方がいい。
辛いこと酸っぱいことが好きな人には、なんと素敵な眼福であろうか。
当然かける。次第に多くかける。自虐的になって、もっとかける。
自暴自棄になって、気絶するまでかける。
という行為が行われ、「ずるん。つるり。もちっとね」は、酸味と辛み効果でコーフンしながら食べ終えることができるのである。パチパチ。
この店は年配客が多く、70代のオジサンは「鶏肉ケチャップご飯」を、一人黙々と食べている。
「鶏肉ケチャップご飯」とは、チキンライスではない。
鶏入りケチャップ風味あんかけご飯なのである。
鶏入りケチャップ風味あんで白いご飯を掻き込む料理である。
きっとお好きなのだろう。時折微笑みを浮かべるとこがかわいらしい。
方やこちらのおばさんは、一人でおかゆを食べている。
見ると(すいません)、豚モツ入りである。えらい。
豚モツを一つ口に含んでは、おかゆをレンゲですくって少しずつ口に入れている。
マリアージュしているのか、時折おばさんもにやりと笑う。
また一人のオジサンは、「炒飯ランチ」。
夜でもある「炒飯ランチ」は、一つの皿に炒飯と青菜炒め、日替わり料理とザーサイがのっている。
そのおじさんは終盤で、二つの料理と炒飯を混ぜに混ぜ一つにして食べ終わった。
「ふう~」とため息ひとつ。
この食べ方は正しい。
見事な大団円に、立って拍手をしたかった。
このバラエティの豊かさこそ中国料理店の楽しさなのだよ。
開高健がこよなく愛した「慶楽」は、今日も満席である。
閉店