東京とんかつ会議65芝大門「のもと家」の特撰ロースかつ定食1500円

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東京とんかつ会議65

芝大門「のもと家」の特撰ロースかつ定食1500円

【肉3衣3油3キャベツ2ソース2御飯2味噌汁3お新香3特記なし計21点】
「お客さんの顔が見える店にしたかったんです」。誠実そうなご主人は、そういって、恥ずかしそうに微笑んだ。

 六白豚に茎わさび、とんかつ醤油。店に入ってメニューを見た瞬間、おやどこかで見たことがあるぞと思った。第34回会議でとりあげた、浅草「豚珍館」である。そこでご主人に聞いてみたところ、浅草の店を閉め、ここに新しく移ってきたのだという。以前の評価では、衣が2点、味噌汁が2点、新香が1点であった。新しい店ではどうであろうか。ご主人の言葉に期待が高まる。

 豚肉はきめが細やかで、うま味があり、脂は舌の上でトゥルっと溶けて甘い香りを余韻に残す。衣は肉に密着してカリッカリッと音を立てる。ラードの香ばしさも充分で、実にとんかつらしい魅力に富んだ衣である。また下に網を引いてとんかつを乗せてあるが、そうした店のほとんどが下側が蒸れてしまっているのに対し、この店はカリカリである。ただ欲をいえば衣がやや威張りすぎている嫌いがあり、この優しいうま味の肉を生かすため、衣をきめ細やかにすれば、さらに輝くに違いない。

 柔らかめのご飯もソース、細く切られたキャベツもいいが、脇役陣で光っているのがお新香と豚汁である。お新香は柚子大根で、恐らくこの店だけであろう。その爽やかな味わいは、とんかつの味を一旦リフレッシュさせ、再びとんかつに想いを向けさせるのに、最高な相棒である。また豚汁は、豚脂の甘い香りと味噌、根菜の香りが溶け合い、心を安らかにさせる穏やかな味わいである。

 甘いとんかつ醤油が置かれるが、酸味がないので衣には合わないように思う.レモン汁と芥子を入れると寄り添うが、このとんかつはそのままか塩だけが一番肉のうま味がわかるように思う。