最初はきれい。
澄んだうま味が、舌を滑ってゆく。
ゴボウを噛む。
筍を噛む。
桜島大根を崩す。
椎茸を口に含む。
ニンジンを潰す。
豚ばら肉の塊に、ゆっくりと歯を入れる。
野菜や肉、椎茸や筍が自立できるように考えられた味付けによって、滋味が目覚め出す。
それぞれからエキスが滴り落ち、汁に溶け込んでいく。
そのことを計算された汁は、次第に味を膨らまし、複雑となり、丸いながらも混沌としたたくましさが生まれる。
どうしようもない幸せが、じっとりと体に満ちてゆく。
「ふうっ」。ため息ひとつ。ため息ふたつ。
桜島大根が出る一月と二月にしか作らない、鹿児島の郷土料理「春寒」は、旬羹とも書く。
すぐそこにいる春を待ちわびながら、冬への感謝で心を温める。
鹿児島 割烹「山映」にて。