伊府麺とは、茹でた卵入り麺を油で揚げ、炒める潮州料理である。
ぷつぷつと切れる食感が楽しい。
しかしこの店の「伊府麺」は、まったく違う。
スープに泳がせた極細麺の上に、絲に切った葱、さやいんげん、鶏肉のあんかけを乗せ、その上に白髪ねぎと細切りチャーシューを乗せた麺である。
揚げてない。炒めてないと、本家伊府麺とはずいぶん違う。
でも大気が冷え込むと、僕は無性に恋しくなる(何しろ冬限定なのだ)。
細麺の食感も、スープの味付けも、トロトロに火が入った葱も、チャーシューや鶏肉の味も、とにかく優しい。
唇に舌に喉に、丸い。
つるんとすべてが一つに収まった、昭和初期に生まれた日本式中華の誠実が、心に染みる。
~定点観測シリーズ~「日本橋よし町」。
閉店