小さくて強い店

食べ歩き ,

2008年から始まったバルブームは、勢いが止まらない。

スペインバル以外にも様々な形態のバルが誕生している。

このブームは同時に、「開店するなら小さな店でもいいんだ」。または「開店するなら、都心部でなくてもやっていけるんだ」という気持ちを生んだ。

以前なら、どう考えてもお客さんが来ないような場所でも、おいしいものを出し続ければ、ネット社会の現代では、瞬く間に知られ、店が満席になっていく。

少ない資金で、たった一人でも開業できるようになったのである。

こうして都心部以外に、「小さくて強い店」が次々と出来始めた。

今回紹介する「メゼババ」も、今年開店したそんな店である。

店主高山大さんは、駒沢「ラ・フォルナーチェ」シェフから独立した。

当初港区に店を開く考えもあったが、その場所で成功して働いているイメージがどうもわかない。

そこで店を亀戸に開く。

亀戸である。

住んでいる方には申し訳ないが、イタリアンとは無縁の土地である。

周囲はやたらラーメン屋が多く、食の多様性といった文化度が高いとは思えない。

店はたった八席のカウンターのみ、しかも裏路地の分かりにくい所にある。

だが口コミ(ネットコミといおうか)が広がり、都心からどんどんお客さんが訪れるのである。

一人ですべてこなしているから時間がかかることもある。

だがほとんどスムーズに数組のお客さんに皿を提供していく。

ある日頼んだ食事を再現しよう。

一皿目は、「ファリナータ」。

いってみればイタリア版お好み焼きかな。

イタリア語でチェーチと呼ばれるエジプト豆(ひよこ豆)の粉に、オリーヴオイルと水、塩を加えて生地を作り、それを薪のオーブンでカリッと焼いた料理である。

質素な料理だが、できが悪いとちっともおいしくない。

すこ固かったり、冷めていたりしたら全然おいしくない。

だがこの店のそれは上出来である。

表面はカリッと香ばしく、豆の油分とオリーブ油の香りが融合して、なんとも食欲をくすぐる。

そして中はふわりと、豆の甘みに満ちている。思わず会席者が微笑み合う料理である。

次が「鰯のヴェネツィア風」。

鰯を丸ごとあげてマリネした料理で、鰯のうま味、マリネ液の酸味、野菜の甘みの渾然に、ワインが進む。

そして白いんげんのペーストと干しダラを混ぜ、バケットに乗せて焼いた皿。

ああ、北イタリアの人が毎日ほおばるマンマの味。優しく温かい、毎日食べても飽きないたくましさに満ちている。

続いて「イタリア産グリンピースの煮込み」。

やたら豆料理ばかり頼んでしまった。

しかし「豆料理のうまい人は料理がうまい」。これは原則である。

日本に比べると、やや小さく、炊かれてしわが寄っているが食べれば甘い。

ただ甘いというのではなく、甘さの奥に生命力を感じる旨味の深さがあって、フォークを運ぶ手が止まらなくなる。

「このソースは子袋に合うかと思って」と、出されたのが、「コブクロのアラビアータ」。

茹でた子袋に辛いトマトソースが和えられている。

クニュッと噛みしめると、ほのかな甘みと微かな苦味が滲む子袋に、キック力のある辛いソースがよく合う。こりゃあ子袋を、生姜ニンニク醤油で食べている場合じゃないぞ。

そして再び豆料理。

「ヒヨコマメのズッパ」。

豆と水だけのスープである。

それなのに、豆の甘みだけではない、うま味がある。

自然の優しさに満ちたうま味に、舌が涙し、体が震える。

時間と丁寧と誠実が生んだ料理である。

最後は、「トマトのスパゲッティ」。

いわゆるトマトソースのスパゲッティである。

具は一切なし。

この潔さが素晴らしい。

そのソースは太陽の味がした。

熟れたトマトのうま味が凝縮して、小麦粉の甘みを引き出している。

よほど自信がなくてはオンメニューには載せない料理である。

店は早くも予約至難。

都心のイタリアンだけで満足しているようじゃ、甘いことを知る店である。

 

亀戸「メゼババ」

http://tabelog.com/tokyo/A1312/A131202/13163222/