「好きな食べ物はなんですか？」と、よく聞かれる。
「食べるプロなので、好き嫌いはありません。つまりすべて大好物です」。
と、答えるが、それは大方ウソである。
ピーナッツ、枝豆、アーモンド、銀杏という小さな楕円形の食べ物が好物だし、汁物の前では、正確な判断が下せないほど好物である。
だが理性も知性も品性も（もともと無いという噂もあるが）振り切って好きなのは、白いご飯だろう。
煮魚、ビーフシチューのソース、中国風蒸し魚、グラタン、麻婆豆腐などをご飯にかけて食べるのはたまらない。
いや正確にいえば、「汁かけ」ではなく、「汁ぶっ込み」の方が、断然うまい。
お下品を承知で、麻婆豆腐も煮魚も、汁にご飯をぶっ込んで混ぜ混ぜする。
この方が圧倒的にコーフンする。
先日も「赤坂璃宮 銀座店」で「鮑の濃厚ソース煮」をいただいた。
これはいつもソースが残る。
紹興酒を垂らしてデグラセするのもいいが、この日の気分はご飯だった。
ご飯を少しもらい、本当は皿にご飯をぶち込みたかったが、相手もいたのでご飯にたらりとかける。
なんと言っても濃厚ソースである。
鮑のエキスやオシスターソース、上湯などの旨みが混沌と溶け込み凝縮したソースを、ご飯が受け止め、我々はもう天国に登っていくしかない。