大根とは健気なやつである。
自ら味わいは控えめにしながら、他者の滋味は深く抱きしめ、恵みへの感謝を深くさせる。
趙揚さんは、もちろんその辺りのことは心得ていて、巧みに調理する
でも「今回は今までの中でも一番難しかったね」と笑う。
前菜から麺料理デザートまでなんと大根づくしで22皿。
食感や味わいを変化させながら、ちっとも飽くことがない、見事な22皿を作り上げた。
辛く酸っぱい紫キャベツと青唐辛子漬けの大根。
酒と山椒、塩で三日間漬け、絞って青引き肉と干し豆腐と炒めた大根。
ほろ苦さと漢方の香りが後を引く、陳皮につけた丸大根。
激辛に味を付けた、切り干し大根。
鶏の滋味を吸い込んだ、青山椒ソースをかけた大根。
しみじみとした滋味が舌の上に流れる、朝鮮人参のスープにつけた赤い皮の大根。
豚タンと挟み青唐辛子ソースをかけた、大根。
干し貝柱のうま味がしみ込んだ、蒸し大根。
一日干して一週間紹興酒と醤油に漬け込んだ、大根。
人参の細切りと天草の触感が楽しい 大根の和え物。
前菜の後に、早くも頂点、「干しダコとアヒルと大根のスープ」
タコの香りとアヒルの滋味を吸いながらも、優しい土の香りを漂わせる大根。
その圧倒的な味の膨らみと澄んだうま味を前にして、我々はただ黙るしかない。
醤肉と腸詰を挟んだ、大根。
大根にフカヒレと干し貝柱を詰めて、白身魚のムースをかぶせ、カリカリに焼いた「大根ステーキ」の驚愕。
6時間煮た牛すね肉とそのスープに、大根を入れて2時間煮た、汁の味わいは黄金色で、豚肉の代わりに大根を使った「回鍋肉」ならぬ「回鍋羅葡」。
富んでももなく刺激的な辛さがすっぽんを引き立たせる「すっぽんと干し大根の炒め」。
そして、豚肉の大根のスープ麺と進み、揚げ大根の砂糖がけ。八方飯ならぬ、もち米と緑豆にあんこと竜眼巻き大根のデザートへと続く。
胃袋は限界なれど、どこかするすると入るは、ジアスターゼ効果か、大根の包容力か。
いやいや、趙揚さんの魔力なり。
銀座「趙揚」
大根とは
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