変態の皿を続けよう
水中でとらえて神経締めしたスジアラのスープと焼きである。
なによりもスープのうま味が綺麗で、一切の淀みがない。
骨に塩をし、酒振り、洗って軽く焼いた昆布で昆布締めにし、その骨で出汁をとったのだという。
大切な恵みに対して、料理人の意思を出しすぎてはいけない。ただ静かに見守ってやるだけ、といっているような料理だった。
次は牡蠣である。厚岸の牡蠣と仙鳳趾の牡蠣を、軽く酒蒸しして余分な水分を抜く。その後、しいたけと鰹節の出汁を吸い込ませ、上から藁火で炙り、下からは炭火で焼いたものである。
海水が抜けエキスだけが残った牡蠣に違ううま味を相乗させ、藁の香りをつけ炭火で味を膨らませる。
一口目はさりげないのだが、余韻の長さがが恐ろしい。
そして先日あげた金目鯛の料理から、59度の塩水で加熱したタチと柚子風味のタリアッテレと続いた。
このパスタも味にキレがある。余分がなく、エレガントな味わいである。
エレガントの後に、対照的なヒグマカツを出され、そのメリハリにやられていると、「まだお腹大丈夫ですか?」と聞くので、「愚問です(笑)」と答えて
「鹿の赤ワイン煮」が出された。
味は想像する赤ワイン煮ではない。赤ワインに漬けたまま68度で二時間加熱した料理なのである。
鹿肉の素直な香りに満たされたステーキといった風情で、そこに赤ワインの香りがうっすらととけこんでいる。
「まだ食べられますか?」とさらに聞いてきたので、「愚問です(笑)」と答えれば、新わかめのパスタが出された。
マダコと紫蘇のだしで茹でたパスタに、数の子と新わかめである。
パスタと具を馴染ませるのではなく、わかめを大きく切り、あえてパスタとの食感の対比を楽しませる。そこの皿に食感でアクセントさせるのが数の子といった具合である。
長谷川稔