噛むという喜びの先にあるもの。

食べ歩き ,

「今度のイタリアで食べて、美味しかったパスタを再現してね」
そうお願いしたのは、デプスブリアンツァの齋藤弘一スーシェフである。
彼はパスタメーカー マンチーニの第二回パスタ料理コンテスト2024で優勝した。
最優秀受賞者は、本国マルケ州のマンチーニ社を訪ねるツアーへ招待される。
三品作ってくれた。
一つは、マンチーニの「メツツォパッケリテラ(輸入されていないらしい)」を使った料理である。
ブイヤベースをからめてバジルを刻んで入れた、シンプル極まりないパスタで、日本で言えばぶっかけご飯か。
しかしこれはパスタ好きのイタリア人が好む、パスタを食べる料理であった
「パスタを食べる料理であった」と、当たり前のことを言ったのは、味の主軸がまさにパスタだからである。
さらっとからんだブイヤベースは海の滋養を伝えるが、脇役に過ぎず、パッケリを噛みしめ、噛み締めて、小麦粉の甘みを感じる際補助役なのであった。
次にやはりローマで食べたという「ポルチーニとムール貝のリゾット:「」である。
これもあっさりとした味わいで、さりげない。
ムールとキノコが出会えば、うまみの重なりで、むんむんときそうだが、淡い仕立てで、これもまた米を生かす料理なのである。
最後は、これまたローマのトラットリアで食べたにいう「パスタミスタのカルボナーラ」である。
7種類のパスタを使ったカルボナーラで、これも前者同様「噛む」ということを意識させられる。
プリッ、シコッ、グニュ、ググッ。
歯と歯肉で受け止める様々な食感が楽しい。
そして「噛む」という行為を喜ばせる。
喜ぶうちに、「噛む」ことへのありがたみと、小麦への愛情が深まっていくのだった。
この後師匠奥野シェフもパスタを作ってくれた。
黄色と緑のズッキーニを使った乾麺のパスタである。
とろとろとなった黄色ズッキーニの優しさが、麺に抱きついた、穏やかな味わいで、それは師匠が弟子を見守る視線に似て、慈愛に満ちていた。