<神戸ディープシリーズ第5弾> 前号から続く
女将は、イカに続いてカンパチを握ってくれた。
なぜか切り身が大きい。
これだけが大きいようで、存分にカンパチを食べさせたかったのだろうか。
続いて、タコ、きずしと握っていただいた。
黙って淡々と握る、老齢な女将と向き合う空間が尊い。
最後に穴子をお願いすると、「塩ですかツメですか」と、聞かれた。
塩でお願いすると、煮てからすでに焼かれた穴子が握られた。
巻物も食べたくなり、かっぱ巻を頼むと、こちらは息子さんの仕事だった。
連れが、太巻きをお土産に頼むというので、僕も便乗した。
太巻きはお母さんの仕事のようで、真剣な顔をして巻いてくれた。
「今日中に食べてね」と、手渡してくれた。
お支払いは、酒二本いただき太巻きも入れて、ひとり7000円であった。
「ごちそうさまでした」。
そう言って、創業して75年という「彦六寿司」を後にする。
何か夢に包まれた気分となって阪急に乗り、三宮まで帰った。
夜遅く、包みを開けて太巻き二切れ食べた。
手の味がある。
皺皺のお母さんの手でほっぺたを包まれた。
それは限りなく慈愛に満ちた、温かい手だった。