今日のわたしはどう

食べ歩き ,

「今日のわたしはどう?」
 コチはちょいと得意げだった。
いつもは薄造りにされて、噛みしめ噛みしめゆくうちに、味がにじみ出る淡き奴。
一見品があるようだが、粗野な青い香りもある。
そこにどうも釈然としない思いを抱いていた。
そんなコチが厚切りにされて、喜んでいる。
軽く炙られ、トマト地のうま味をまとって、豊かなうま味を膨らます。
お前はこんなに豊満だったのね、と呟いてみる。
一方椀ものの湯かけは、塩を馴染ませたコチの頭を焼いて、熱した昆布だしに落とし、静かに待って、あたりの頃合いを見て盛り付ける。
そこには、コチの力を信じた料理人の潔さがあって、繊細な命のうま味だけを引き出している。
静寂の中にゆるぎなき滋味があって、ひと口啜るたびに、深い充足のため息をつかせるのだ。
さて焼き物は、まだ身がいかっているコチに直前で塩をざっくりふり、塩が馴染む前に焼いたという。
前盛は、塩を混ぜたおろし胡瓜とおろしわさびの合わせ。
弾けるようなコチに歯を立てれば、はらりと崩れ、たくましき甘みが舌を流れていく。
その刹那、コチが持つ青々しい香りが鼻に抜けるので、すかさずおろし胡瓜を食べれば、香りが共鳴して、ニヤリと笑うというワケだね。
夏が来た。と、しみじみと感じるワケだね
ああ、コチに惚れこんで生まれた三つの魅力に、夏酒が染みる。
「割烹 智映」にて。