山利

食べ歩き , 日記 ,

「山利」の釜揚げしらすは、生きている。
口の中に、微かな微かな命の息吹が吹き抜ける。
稚魚ならではのいたいけな甘みが、舌の上で揺らいで、心が溶かされる。
その味は、捕獲されてから、いかに最短時間で茹で上げるかということに、木村さんが心を砕いているからである。
機械任せにはせず、人の感覚で、茹で過ぎないように、水分が幼き体に含まれすぎぬように、気を張り巡らせた結実である。
食べると誰もが、「ほうっ」と声をあげ、顔が崩れていく。
優しい笑顔を生んで、心が豊かになる。
それはしらすに敬意を払った仕事があるからこそ、生まれる笑顔なのだろう。
小さき命に感謝する。
「し」の字に曲がった可愛き魚に、効率に走ることなく、ひたすら美味しいしらすを作り続けることに熱情を注ぐ木村さんに、感謝する。