中庭の藤が咲き枝垂れるころ、岡山「紺屋荘」では、「鮑とレタスのしゃぶしゃぶ」が用意される。
若女将が、薄く薄く切った鮑とレタスを、出汁に潜らせて取り分ける
しゃぶしゃぶといっても、熱い出し汁に5秒ほど浸けるだけである。
鮑はくるりと縮まり、レタスはくたりとなる。これはぜひ一緒に食べよう。
クニュッと鮑に歯が入れば、レタスがシャキッと応える。
鮑が抱える海の甘みが、優しいレタスの甘みと同化して、ああ、なんともたまらない。
海と山が呼応し合い、幸せを運んでくる。
出汁は、次第に鮑の味が濃くなって、出汁や調味を越えていく。
最後はか細き素麺を入てにゅうめん仕立て。
鮑の滋味をまとって口に登ってくる素麺に、思わず笑い、目を細めたまま、嬉のため息を一つ。
閉店