三越前「蟹王府」

一皿一万八千円に続く皿。

食べ歩き ,

一皿一万八千円という高価な料理の後に出されたのは、スープだった。
「蛤と芥子菜の澄ましスープ」である
出汁は使わず水だけでとったという。
それもあえて沢山の蛤でエキスを出していないのだろう。
淡い淡い滋味が舌を流れ、そこにほんのりと辛子菜の刺激が点滅する。
スープは、贅沢な料理の余韻を鎮静させるかのように、優しく感覚を洗う。
妙味必淡という意識が、ゆっくりと腑に落ちていった。
続いて出されたのは、「栗蟹と春雨の家庭風煮込み」である。
イソギンチャクのミソと蟹の風味で、春雨を炒めた料理である。
ミソと蟹のうま味が、春雨一本一本にからんで、笑い出したくなるほどにうまい。
無性に白いご飯が恋しくなる料理であった。
勢いだけで押し進める料理は、むしろ簡単かもしれない。
だがそれだと、食べている人の息がつまってくる。
濃淡や馳走と惣菜を使い分け、押しと引きの波を作っていく。
こんな料理の流れこそ、贅沢というのではないだろうか。
三越前「蟹王府」にて。