四谷「たく庵」

たかがピーマン炒め。

食べ歩き ,

ピーマン炒め千円。
どう考えても高い。
刺身盛り合わせ千七百円と比しても高い。
しかし私はどうしても食べたかった。
好奇心もあった。
千円だから、牛肉とか混ぜるのだろうか。
トリュフ塩をかけちゃうのだろうか。
細切りだろうか乱切りだろうか。
様々な考えが及ぶ。
店主はピーマン一袋を取り出して切り始めた。
縦四つ割りである。
そしてフライパンで焼く。
しかしよく見ていると、ただ鍋に放り込んで焼いているのではない。
菜箸でいじらずに、皮側だけを焼いている。
やがて透明な液体を少し入れ、塩を振って皿に盛った。
ご覧の通りピーマンだけである。
食べれば透明な液体は、出汁であった。
しかしなにより、皮側だけを焼いたことにより、ピーマンが甘い。
それが塩分によって引き出され、出汁のうまみと出会って、まろやかになる。
これには、芋焼酎のロックが合った。
1人ピーマンをかじりながら、芋焼酎をやる。
この歳にして初めての経験に、少しまどろんだ。
四谷三丁目「たく庵」にて。
高いか高くないか、それはあなた次第。