すべてがスフレのためにあった。

食べ歩き ,

すべてがスフレのためにあった。
柔らかく、優美で、はかないスフレは、オマールの香りと甘みを吸い込んで、そこにある。
炒めたコリンキーや枝豆の食感は、スフレの繊細さを際立たせるためにあり、トリュフとレモンクリームのタルティーヌは、スフレに色気を与える。
ビスクスープは、甲殻類の滋味をたっぷりと湛えているが、あえて淡い仕立てにされて、スフレの繊細を打ち消さぬよう、静かな旨みとなっていた。
「主役のスフレを生かすための脇役が素敵ですね」。そういうと
「はい。ありがとうございます」。鴨シェフは、優しい笑顔を浮かべた。
前菜の「ホッキ貝とスイカのマリネ リコッタチーズ」は、混ぜて食べると、爽やかな味わいの中で、低温で旨みを引き出したホッキが生きかえる。
なにしろ、すべての中で噛むのはホッキだけなので、余計に味が際立つのだった。
魚料理の「瀬戸内産マナガツオ セトワーズのラビオリ」は、赤ワインソースが添えられていた。
カルディアン(闘牛士)という名のソースで、南仏カマルグ地方では闘牛士が闘牛の終わった牛肉を赤ワインソースで食べる風習から名付けられたソースだという。
柔らかな甘みを持つマナガツオには、赤ワインソースは強すぎないかと思いながら食べてみたが、強さをこの魚に適応させていた。
それゆえにまながつおの品を、赤ワインソースが引き立てて、陶然とさせる。
ガルニのセトワーズのラビオリを途中で食べれば。思いを遥か地中海へと運んでいくのであった。
八丁堀「ジャルダンドカモ」にて。