由布院「JIMUGU」

「今年一番美味しかったレストランはどこですか?」

食べ歩き ,

「今年一番美味しかったレストランはどこですか?」
年末になると、各媒体や忘年会で聞かれる。
「そんなこと、絞れるワケないだろ」。
そう心の内で思いながら、ワザと、意識的に,時代的な意味も含めて、一つのレストランと料理をあげる。
それは湯布院「JIMGU」である。
衝撃を受けたのは、胡瓜、トマト、じゃがいもといった、誰もが味を知っている野菜から、新しい魅力を生み出していたことにある。
我々食いしん坊は、「おいしい」ということへの知的好奇心が旺盛である。
常に未知の「おいしい」求めて、知的好奇心を満たす旅を続けている。
それが、胡瓜、トマト、じゃがいもですよ。
何十万回食べたかもしれない、野菜ですよ。
トマトはロゼワインの風味を感じ、胡瓜はみずみずしさの中に刺激的な野生を発見し、じゃがいもは生命の繊細さが伝わる、切ない甘みを感じた。
それぞれの味を見出した時、僕は何故か涙が出そうになった。
その衝動は、生命の根源に触れた感覚だったのかもしれない。
あるいは、料理の可能性を引き出した人間の勇気を見たのかもしれない。
自家畑の中で、慈愛に満ちた眼で野菜に触るTashiシェフに、
「トマトのタルタルは、ロゼワインのような、野生のベリーのような風味がした」
そう伝えると、彼は穏やかな眼に恥ずかしそうな笑みを浮かべながら、黙って微笑むのだった。
 
「新しい料理の発見は、新しい星の発見よりも人類の幸福に貢献する」・
ブリアサヴァラン