神田「まつや 」

この店で蕎麦を食べなかったのは初めてである。

食べ歩き ,

退院してやりたいことの一つが、「まつや」に行くことだった。
お茶の水の病院の帰りに直行する。
座るなりメニューも見ずに、「キリンの小瓶と板わさ、葉わさび」ください」と、お願いする。
板わさは、少し多めにワサビを乗せ、一番短い辺に醤油をつけて食べるのが、好きである。
さらには、葉わさびとわさびを乗せ食べるのも、たまらない。
こうしてビールを飲む。
ここで、「かき揚げとぬる燗お願いします」と、頼む。
蕎麦味噌でちびちびとかぬる燗をやっているうちに、かき揚げが運ばれた。
このかき揚げ単品というのは、品書きにはないが、頼めばやってくれる。
普通の天ぷらや天丼は車海老だが、これは才巻海老を2匹つまみ揚げしたものが二つと、イカのかき揚げ、紫蘇と海苔の天ぷらがつく。
これで燗酒を1本飲もうという、算段である。
さあ締めはどうしようか。
季節のなめこ蕎麦にもそそられたが、ここはカレー丼といってみた。
そば屋のカレーがあんかけされた丼には、哀愁がある。
しっとりとした鶏胸肉とシャキシャキとした玉ねぎの対比がよろしい。
そのままかき込むのもいいが、こいつはあんとごはんをよくよく混ぜて食べると美味しい。
「まつや」のメニューは全48種類。
まだまだ半分以上食べてないものがある。
これは今年、全メニュー制覇をしよう。
体面は、同じ年齢のおしゃれな紳士で、ビール大一本に、燗酒2本、焼鳥にジャコ天、板わさでやってから、もりそばで閉めていた。
出ようとすると、僕の顔を見て微笑み、会釈した。
僕も返す。
「同志よ。今日も楽しんだね」と。