秋刀魚とディープキスをした。
「矢部」の塩焼き秋刀魚は、しっとりと崩れ、舌を舐め回すように広がっていく。
パサパサ感がみじんもなく、どこまでも優しい。
脂は甘く溶け、肝は微かな苦味を感じさせながらつぶれ、身がふんわりと舌を抱きしめる。
こんな色気のある塩焼き秋刀魚は、他にはない。
きっかけは、背肉だけ食べて残す人が多かったからだという。
もっとおいく食べさせることはできないか。
5年間試行錯誤して今の形が出来上がった。
最高クラスの秋刀魚を買い、背開きにし、肝から苦い胆嚢などや鱗を除去し、骨を全て取って。肝や尾に近い身肉を戻して閉じ、串を打つ。
薄皮を傷つけない持ち方、炭の配置や焼き方、塩加減など、理想に向けて細部に渡り、考えられている。
焼きあがった秋刀魚は、神々しくもある。
自らの塩分だけで甘く感じさせ、もう大根おろしもかぼすもいらない。
ただただ秋刀魚との蜜月を楽しみたい。
九月なると必ず大漁状況が報道される秋の魚である。脂が乗って美味しいのは、根室から三陸沖に南下する9月から11月。秋に獲れる刀のような魚ということでこの漢字が当てられた。鮮度が重要なため、江戸時代は低級な魚として食べられてはいなかったという。
体が細長いことから「狭真魚(さまな)」の音便約とする説。
古くは「三馬」や単に「馬」と言われており、「秋刀魚」は、体が刀状で秋の代表的な魚であることからの当て字
佐藤春夫の