金沢の恵み、なかんずく至高に浸かりたい。
そう思い、割烹「片折」を訪ねた。
ご主人片折卓矢さんは、市内の市場には行かず、毎朝、70km離れた港まで通って、その日一番の魚を仕入れているという
「金沢は、優れた食材が多くある。でもほとんど県外に行ってしまう。地元の最高のものを使って料理を作って見たかったんです」。片折さんはそう言って、目を輝かせた。
あまつさえ金沢には、優れた固有の伝統野菜も多い。
「野菜も採れたての土の香りがするものを使いたい」と、これまた四方へ足を延ばしている。
お造りは寒ブリだった。
三日間寝かせ、食べる時間に合わせて骨から外したというカマの部分である。
昆布醤油ゼリーを乗せ、わさびを少し乗せ、柚子を散らした根のツマを巻いて食べる。
「クリッ」。
音が立つかのように痛快に歯が入っていく。
だがその後に歯が、すうっと引き込まれた。
脂がのっているが、いやらしくない。
ほの甘く、脂が澄んで締まっている。
その態が、どうにも色っぽい。
一方寝かせて三日目だというフグの造りは、雑味が微塵もなく、最初の一口は無味に感じるほど透き通った味でありながら、噛むほどに旨味が湧き出て来る。
さらに焼きガニは、なんとエレガントなのだろう。
まだ海の中にいるかのように清らかで、みずみずしく、透明感のある甘みが、ポタリポタリと舌に落ちていく。
白子焼きも、艶やかながら、実に清い。
しつこさや押し出しの強さがなく、精の神秘だけを教えながら、とろりと官能にしなだれてくる。
どの料理にも自然の気高さがある。
「この店にしてよかった」。
金沢の豊穣なる恵みに、感謝が芽生える。
それらは、自然への敬いと感謝を湧き起こすのであった。