酸辣湯は、四川地方の代表的なスープである。胃腸が弱っている時や、風邪に効果があるとされるスープで、最近の辛味ブームのせいかよく見かけるようになった。それもスープ麺状態にした、酸辣湯麺としてである。
カップ麺まで登場した人気麺は、本来、辣油と黒胡椒で辛味を出すが、東京では黒胡椒だけで作るものが一般的である。一見すると穏やかな色合いながら、飲めば、ひりりと鼻を突く黒胡椒の刺激と口腔を締める酸味が、風邪など吹き飛んでしまいそうな爽快感を呼ぶ。。そこが魅力である。
ところが「芝蘭」のそれは、姿からして違う。赤黒い、見るからに辛そうなスープには、みじん切りのねぎが浮かび、白い中細麺の上には、炒めたひき肉と青菜、ピーナッツ、それに唐辛子がごっそりと乗っている。顔を近づければ、まず山椒の香りが鼻を刺し、麺をすすれば、至極辛い。辛味が口内で爆発して粘膜を痛めつける。だが、黒酢の練れた酸味とコクが辛味との均整を見事にとっていて、すいすいと飲み進ませてしまうのである。やがて辛味に慣れて(麻痺して?)くると、自家製だろう、ベースとなっている辣油に溶け込んだ複雑な香りに山椒の香りが加わって、なにやら陶然とした気分となってくる。香りだけではない、スープやひき肉のうまみ、辛味酸味、ピーナッツの歯触りや甘みなども混じり、渾然一体となった味わいが押し寄せる。汗、涙、鼻水を大量流出し、痺れた舌を犬のようにあえぎながら、ふっと微笑みたくなる、奥深い麺料理である。
芝蘭
酸辣湯麺 1000円
中央区銀座7-8-15 銀座新橋会館2F
閉店