神戸元町「二位」

2度と出会えない料理。

食べ歩き ,

ここにもまた、一生誰もいけない店がある。
「敦煌」と同じく、閉店まで席は満席で、誰もいくことは叶わないのである。
かに肉と蟹子の炒めは、一口入れた途端、蟹の甘い香りが口の中で爆発して、唸り声を漏らす。
そして一瞬白身魚の薄切りかと思ったのは、フカヒレの刺身である。
毎日老体に鞭打ち、朝5時から仕込まれていたというフカヒレは、汚れや臭みが一切なく、無垢で、純粋である。
丁寧かつ、気の遠くなるような丹念な仕事を経て得られた芸術でもある。
歯の間でコリコリと小さげな音を立てるそれを噛みしめながら、フカヒレを早朝から掃除したる姿を思い浮かべ、少し涙がにじんだ。
そして堂々たるフカヒレの煮込みである。
二番目の写真が一人前であるから、いかに大きく、大盤振る舞いなのかが分かるだろう。
太くバラバラなのが最高なのはわかっている。
だがフカヒレを口一杯に頬張る幸せは、誰にも譲れない。
次の辣子鶏は、辛いだけじやない。
密かに鰕醤の味が忍んでいて、箸が止まらなくなる。
そしてナスとエビのチリソースときた。
誰が海老とナスを合わせようと考えたのだろう。
プリリとフワリの対比と、異なる柔な甘みの対比が、互いを生かす。
続いて、黒酢の酢豚はヒレ肉のメダイヨンで、やられたな。
叩きききゅうりの付け合わせも憎い。
あまつさえ、ロメインレタスのエスニック風炒めときた。
レタスのオイスター炒めとは違う、辛味と微かな魚醤がレタスをたくましくさせる。
ちなみにこの炒め汁を白いご飯にかけりゃ、大笑い。
笑っている場合ではない、ナスと万願寺唐辛子の酸辣炒めときた。
ナスは油通しでなく蒸し茄子なのだろうか、綺麗なな味わいに、酸っぱさと辛味がキックして、いけない気分となる。
純朴な少女を痛めつけているような、禁断である。
さあ終盤、レンコンと海老香味炒めときた。
これは魚香風味で、大ぶりに切ったレンコンと海老そぼろのバランスが見事である。
締めは、ビーフンのアーリオオーリオ。
これはいけません。
パスタより味を吸ったビーフンが、たまらなく愛おしくなります。
そしてどうしてもと頼んだ、牛肉と黄韮のあんかけ焼きそば。
両面パリッと焼いた極細麺の香ばしさに、これまたお腹いっぱいなのに箸が止まりません。
どこかにありそうでいながら、ほかにはないオリジナリティ。
そしてどの皿も、優しい味付けでくどくなく、食材の滋味が迫ってくる、
今日売り切れで食べることの叶わなかった「つるむらさきとケンサキイカ、腐乳ニンニク炒め」や「水煮牛肉」、「ヒラメと絹豆腐の酸辣煮」もいつか食べたい。
そう思ったけど、叶わない、
店は年内で閉店し、席はない。
ご主人は誰にも自分の料理を教えることなく、ひっそりと隠居するのだと言う。
2度と食べることのできない料理なのである。
どなたか中国料理人の方、想像で作ってください。