金沢「片折」

<白き誘惑 その一>

食べ歩き ,

 
真冬の先付は、源助大根の風呂ふきだった。
輪切りではなく、縦に切られて炊かれている。
置かれた姿のまま、口に運ぶ。
ゆっくりと、慎重に噛む。
大根はつぶれ始め、すべてが壊れた時、ようやく大根のエキスが口の中に広がり始める。
噛む方向と繊維が直角なため、輪切りを噛んだ時のように、いきなりエキスが出ない。
今度は大根を縦にして、繊維と平行に噛んでみる。
すると歯が大根に入った瞬間、口の中に大根の汁が溢れ出る。
どちらがおいしいという話ではない。
ただ、繊維と直角に噛むほうが、時間差というおいしさが生まれる。
歯は、大根の表面を突き破る痛々しさを感じ、大根の肉に歯が包まれる喜びを感じ、やがて舌の上に流れ出る、大根の滋養を受け止める。
そうして、より大根への愛が深まる。
片折さんは、きっとその感覚を大切にしたかったのだろう。
呂吹き味噌の大根へのいたわりも感じさせる淡さと、ほとんど出汁の味を感じさせない味付けも手伝って、そこには静寂という美味が横たわっているのだった。