<温める>

食べ歩き ,

「お客さん、納豆お嫌いじゃないですかあ」。
「好きです」。
「よがったあ。昨日から寒ぐて寒ぐて、あーこれは納豆汁だあって作ったんで、食べてください」。
豆腐と芋の茎、つぶした納豆による味噌汁が振舞われた。

「ずずっ」。
とろりとした熱々の汁が、体の隅へと広がっていく。
「はあ~」。
お椀から顔を上げると、女将のうれしそうな顔と出会った。

「納豆、つぶすんは昔は子どもだちの仕事だったけど、いまは子供も忙しいだろ、ばっちゃんの仕事ですよ」。

今夜は魚が何があるかをたずねると
「天口めばる。焼いてもいいけんど、煮だほうがうまいよ。焼くんだったら口細がれいもいいですよ」。
で、かれいに決定。

しめは名物弁慶飯。

母の愛と民の知恵、地の恵みと人の心に触れた、鶴岡の旅、「いな船」にて。