京都「食堂E」

これが食堂。 <京都の平生>51

食べ歩き ,

体の底から冷えこむ夜から店に飛び込むと、突き出しはお粥だった。
なんと粋な計らいだろう。
「最近お粥に凝ってまして」と、店主がいう。
酒亭で未だかつて、突き出しにお粥を出されたことはない。
ほどよい米の花が開いたお粥を口に運ぶ。
凍った舌や喉が緩んでいく。
添えられた大徳寺納豆と新潟の北部、山北町の海苔を粥に落とす。
塩気と香りが無垢な粥に色をつけ、食欲が湧き上がってきた。
菜っ葉は、ほうれん草のくるみあえと、うまい菜とお揚げの炊き合わせをお願いした。
十種近く揃えられたお造りの中から悩みに悩み、白甘鯛とヒラメを頼む。
菜っ葉で燗酒が一合開いた。お造りで燗酒が一合開いた。
そろそろ温かいものでも食べようかい。
「クエの煮付けをお願いします」と、店主のしんちゃんに言うと
「どの部分を炊きますか?」と切り身を持ってくる。
カマにも惹かれたが、腹身の脂が乗った部分を炊いてもらうことにした。
堂々たるクエの煮付けは、口の中でほろりと崩れ、圧倒的なうまみを広げる。
品が漂う煮汁の味もいい。
「すいません燗酒をもう一本お願いします」。
メニューに車海老の天ぷらとあるのを見て、それをフライにしてもらう。
甘みに溢れ、味噌がみっちりと詰まったエビフライでまた一合が開く。
そろそろ閉めようかい。
ここは食堂、カレーライスやオムライス、イカスミのリゾットやブイヤベース茶漬け、丼類やらうどんもある。
だがここはラーメンと塩にぎりだ。
長時間煮込んだ、滋養に富む鶏がらスープと和風出汁を混ぜたラーメンスープが、痛飲した舌に優しい。
とろんと舌を包み、丸い丸い甘みで抱きしめ、その中を細麺が駆け抜ける。
「うまいなあ」と、しみじみ呟く。
塩おにぎりも運ばれた。
絶妙な握り具合で、口に入れるとはらはらと舞うように崩れるが、おにぎりの形は崩れない。
ラーメンスープを飲んで、その余韻で塩おにぎりを頬張る。
幸せが体の中に満ちてくる。
食べログ点数3.01.
愛してやまない京都の酒亭、食堂です。
食堂E