里芋の煮っころがし

たぶん、いいね! は、少ないだろうなあ。
里芋の煮っころがしである。
コースが2万円の割烹で、最後に出された料理がこれだった。
野菜の焚き物を、単体で出す店は少ない。
たとえ出したとしても、どうしても上に金目のものを置きたがる。
しかしこの芋を食べればわかる。
芋の焚物には、振り柚子さえいらない。
歯を入れればすうっと、表皮から中心まで均一に歯が入っていく。
それでいながら、柔らかすぎることなく、里芋の生物としての尊厳を感じる歯ごたえがある。
味付けはこれ以上でもなく以下でもなく。
洗練されすぎてもなく、野暮ったくもなく。
心をほっこりと温める里芋の優しさを引き出しつつ、締めとして余韻を引きずりすぎない味にとどめている。
それこそが家庭では到達できない味わいである。
大間のマグロもキャビアも松葉蟹も鱧も松茸もフグもフォアグラも花山椒もA5の牛肉もいいかもしれない
でも僕は、こういう野菜料理に出会うために、割烹に出かけたい。
金沢「片折」にて