酔夜は荻窪「ゆき椿」から始まった

食べ歩き ,

酔夜は、路地にひっそりと明かりを灯す、荻窪「ゆき椿」から始まった。
息子が料理を作り、父が刺身を作り、酒を入れる。
父子鷹で営む居酒屋は、もうそれだけで心がのほほんと伸びていく。
エーデルピルスで喉を潤し、辛い辛い「青唐辛子冷奴」と、「水茄子塩昆布和え」で、悦凱陣をゆく。
辛さを豆腐と水茄子でいなしながら、飲む酒がうまい。
刺身の盛り合わせは、イサキ、イワシの酢〆、キンキ、かつお、アオリイカ。
ううむ。もう一本悦凱陣をぬる燗で。
つづいてポテサラ学会会長としては頼まずにはいられない、ポテサラを。
マヨ味薄め、半潰れ、胡椒効かせ、具は玉ねぎにハムみじん。
最後は、鱧のタレ焼きで、これには竹鶴ぬる燗を。
お父さんがぬる燗を置きながら、「お強いですね」と言う。
酒3本でお強いとは、荻窪の客は飲酒量が少ないのだろうか。
すっかり気を良くして、次は阿佐ヶ谷「善知鳥」へ流れる。
こちらも見つからないように、ほぼ名刺大の看板である。
薄暗い店内の中、誠実そうなご主人が一人店を守っている。
ぬる燗を一本。
きゅうりと昆布、沢庵の突き出しで飲みながら、冬瓜のおでんをいただいた。
ダシがしみた冬瓜は、口の中でかすかな甘みをにじませながらとろりと崩れ、消えていく。
そこへぬる燗を流し込めば、時間が止まって、都会の義理が、ゆっくりとはげ落ちていった。