焼いた万願寺唐辛子とフィレンツェ茄子を煮出したスープである。
「ああ」。
青唐辛子の青い香りと焼きナスの香りが溶け込んだ茶色の液体が、官能をくすぐる。
養分が、細胞の隅々まで行き渡っていく喜びが、迫り上がってくる。
「ああ」。
充足のため息一つ。
しかしこれは脇役で、主役はジャガイモのムースと氷に見立てた枝豆の茹で汁のゼリー、枝豆のソースであった。
離乳食はこの柔らかさなのではないかと思わせる、絶妙な硬さにまとめられたムースに枝豆の香りが爆ぜる。
すかさず、スープを飲んで合わせる。
心はいつしか、都会から離れていった。
室内にいるのに、畑の朝風が頬を撫で、セミの声が聞こえてくる。
「子供の頃は、毎日毎日自分家や近所で採れた野菜ばかりが食卓に上がっていました。肉を食べたい。たまには贅沢をしたいと思っていましたが、今ではそれが本当の贅沢だったと思います」。
最高の果物や野菜を全国から探し出し、送ってもらい料理する勝俣シェフはそう言って、真剣な顔をした。
贅沢が、真の贅沢が、体の中にゆっくりと満ちていく。
白金「yama」にて。