「水分をいかに抜き、いかに残すかが大事なんです」
ほうれん草の胡麻和えである。
しかし凡百の胡麻和えとは格が違う。
佇まいが美しい。
丸くまとめられ、和え衣のかけ方が精緻で惚れ惚れとする。
それは割烹の仕事のようだが、居酒屋としての親しみがある。
そして肝心のほうれん草である。
茹でたほうれん草を、ざるにおか上げして三時間置く。
そして軽く絞り、巻きすで巻く
丸く整えたら、刺し身包丁でスパッと切る。
食べれば、ほうれん草はみずみずしいが、余計な水分は一切ない。
自然なほうれん草の水分だけが、ほの甘く滴り落ちる。
之が料理というものだろう。
之が誠実というものだろう。
実はごま衣にも秘密があるのだが、その話はまた後で。
湯島「シンスケ」にて。