華奢な女性の手で

食べ歩き ,

華奢な女性の手で、心を撫でられながら、次に雄雄しき男性の太い腕でハグされる。そして再び美女が登場する。
そんな夜だった。
マンゴーとアボカドと帆立の前菜は、マンゴーの甘酸っぱさを、アボカドのオイリーなコクが持ち上げ味を太くする。そこへちょっと色っぽい潮のほの甘みが溶け込んでいく。
三者のバランスを、トマトジュレがひそかにまとめた、大胆と繊細が入り混じった皿に唸っていると、パテ・アンクルートが登場した。
錬り肉のうま味やフォアグラの香りとコクを噛みしめれば、その向こうで豚足のコラーゲンの甘みが、コリッと顔を出す。
肉好きの肉好きのための正道が、心を奮い立たせる。
そこへ攻めてきたのが、ブーダンノワールである。
夜より複雑な血の甘みの中で、クミンが香り、顔が崩れる。
そこへナッツとオレンジのチャツネが甘美を加え、猛々しさとエキゾチックが入り混じる。
フレンチの王道二皿で、しみじみとした幸せを噛みしめていると、鯛の紙包みスープ煮が運ばれた。
バイマックルーの甘い香りと鯛の甘みが溶け合うスープに、子供のような顔をして喜べば、「タイの頭で炊きました。今混ぜてきます」と、タイご飯。
ビストロながら、様々な国の要素が絡み合う。
だがそこには、目先を変えてとか、奇抜な演出を狙うといった姑息さが、微塵も感じられない。
「おしいものを食べてもらいたくて、考えたらこうなっちゃいました」という、素直な料理人の喜びが伝わる料理である。
きっとシェフは、食いしん坊なのだろう。
そんな気配に満ち溢れている料理である。
ならば同じ食いしん坊同士として、大いに食べ、飲み、しゃべり、笑おうじゃないか。
皮や脂や肉の滋味を噛みしめる喜びに溢れた、主菜のバロティーヌや肉汁に富む三元豚のロティ。
王道のフォンダンショコラと、絶妙な味わいの果物のハーブティースープ仕立て。
ああ、食いしん坊の料理は楽しい。

西荻窪「オルガン」にて。