東大前「ビストロ ジョンジ」

色が生きている料理

食べ歩き ,

「お母さんの作る料理は、一つ一つ色が生きている。そんな料理でした」。
「でも初めて外食をしてみたら、いつも当たり前に食べていた料理が、そうではなく、すごかったことを知ったのです」。
そう女主人のキムスジンさんは、しみじみと語られた。
韓国料理の多くは、うま味調味料と砂糖、塩分に侵されている。
手間暇をかけられない。最初の一口で美味しいと言ってもらいたい。
そう考えるからだろうか。
しかしここにはそんな気配は微塵もない。
最後に出された「おこげのスープ煮」がそうだった。
滋味深いスープは、大仙鶏と干し鱈、棗からとったスープである。
しかし塩分は淡く、一口目は水のように体に染み渡っていく。
そこへおこげの香りが、そっと漂う。
ふう。
一口食べて、ため息が出た。
そして思う。
「願うことなら毎日食べたい」・
そして周りに添えられたミッパンチャンが、素晴らしい。
どれも手間暇かけて作られたものでしか生まれない、自然な味わいがある。
黒毛和牛シキンボウの醤油煮は、いつまでも噛み締めていたい。
片口鰯の自家製魚醤で作ったというキムチは、すっきりとして、練れたうまみがある。
こちらも自家製魚醤と自家製醤油で漬け込んだというエゴマの醤油漬けは、発酵した複雑な旨味と塩味が重なり合って、酒とご飯を呼ぶ。
コチジャンも韓国味噌も自家製
有機の大根とネギ、ニンニク、生姜、塩で作ったトンチミは、あっさりとしていながら奥底にあるうま味が舌を捉えて離さない
豊洲から仕入れた刺身用のスルメイカを切り、玉ねぎの甘みと自家製魚醤で味をつけた料理も。たまらない。
さらには、青梅の自家製コチュジャン漬けも、塩味、うま味、酸味、甘みが渾然一体となって、口の中を転がっていく。
これが韓国料理というものである。
この日は、料理を10皿ほどいただいたが、キムチ以外辛い料理が一つもない。アミュースで出された胡桃の美味しさに目を丸くしていたら、女主人はぽつりと言われた。
「海老とかの派手な食材より、たかが胡桃だけど、手間をかけて作ったものを出したいんです」。