金沢「片折」

答え合わせ。 

食べ歩き ,

「片折」では、毎回とったばかり出汁を、バカラのグラスで飲ませてくれる。
昆布だしは、来客に合わせ、数時間前から火加減に神経を巡らせながらとる。
鰹節は目の前で掻き、昆布だしに入れる。
鼈甲色に輝く出汁が運ばれる。
毎回その味は、微妙に違うが、それは椀種に合わせて強弱をつけているからである。
脂が多く、そのもの出汁が滲み出る、アイナメなどは淡い出しを合わせ、蟹しんじょうなどは、やや濃い目の出汁を合わせる。
出汁を飲んだ時に、今日はどんな椀種だろうかと、思いを馳せるのが楽しい。
やがてお椀が運ばれ、答え合わせが完成する。
その日の出汁は、昆布出汁の味が以前に増して強かった。
淡い魚なのだろうか、しんじょうなのだろうかと、考えあぐねる。
やがて運ばれたお椀は、「沢煮椀」だった。
何度もこの店に足を運んだが、初めて出会う椀である。
能登豚の背脂、ネギ、椎茸、三つ葉などが、細く細く三つ葉の軸と同寸に切りそろえられている。
包丁の冴えが素晴らしく、「仕事がしてある」と言われる椀であった。
夏の体力が落ちる候、たくさんの野菜の背脂、そして濃密な出汁で、勢いをつけて欲しい。
そんな片折さんの思いが込められている。
飲めば、体が火照っていくような滋味があって、しみじみとしたありがたみが湧き上がってくる。
沢煮椀は、猟師料理が起源とされ、山に入る猟師が塩をした肉と山菜を合わせて飲んだ汁と言われる。
沢山を意味する「沢」が語源だとも、細切りが並ぶ姿を沢に見立てたという説もある。
元々は田舎料理だから、それに合わせ、入れられた椀も、外観は田舎っぽいお椀である。
しかし蓋を開けると、それに反して見事な蒔絵が現れた。
これもまた、お客さんの心の変化を巧みに演出する、片折さんの心意気であった。
金沢「片折」にて