穴子はすずめ焼に限るねえ。

食べ歩き ,

穴子は照り焼きではなく、すずめ焼に限るねえ。
さっと塗った醤油地が、穴子に潜む甘みを際立たせる。
いやなによりきりっとした、背筋が伸びた味が江戸っ子らしい。
なに? 江戸の味は甘辛いんじゃあねえのかいって?
いんや。
甘さを引いた、こんな辛さこそ粋じゃねえか。
口に運べば、醤油の香りがぷーんと立って、噛めば穴子の滋味がこぼれ出る。
そこですかさず燗酒を流し込む。
ああ、酒の甘みが穴子と出会って、喜んでらあ。
メソっ子より、少しだけ大きいてえサイズもいいねえ。
最近はやたら大きな穴子を、どうだとばかり見せびらかすが、ありゃあ野暮だねえ。
乙な味は、このサイズでなきゃ出ねえと思うん。
肉体のうま味は、こっちが勝ちよ。
さあ、すずめ焼をいただいた後は、柳川といってみようか。
きりりと辛い後に、この優しい甘みがたまんねえ。
ささがきも細く細く整えられてらあ。
こいつでまた燗酒一本だな。
汁は全部飲んじゃいけねえよ。
なに雑炊にするのかって?
いんや違う。
白いおまんまもらって、そいつにかけるのさ。
「たまる」